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米大統領選挙の展望とその影響

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DATE
2020年09月07日

GBJアドバイザリーボードメンバー 藤田 勉

 

今年11月3日に予定される米国大統領選挙は、大激戦になりそうである。一般には、民主党のジョー・バイデン候補が、ドナルド・トランプ大統領をリードしていると言われる。しかし、トランプ大統領が徐々に追い上げており、逆転も視野に入ってきた。以下、世論調査データはギャラップ社によるものである。

 

米大統領選が事前の予想通りの結果にならないことは、2016年のトランプ氏対ヒラリー・クリントン氏の例でも明らかである。2016年大統領選の事前の世論調査では、ほぼ一貫して、クリントン氏がトランプ氏をリードしていた。投票日の半月前の10月15~21日の調査の支持率では、クリントン氏44%とトランプ氏31%と13ポイントもリードしていた(直前は5ポイント差)。

事前の世論調査と結果が異なった理由の一つは、選挙制度にある。大統領選は、州別勝者総取り方式である。州別の得票数が1票でも多い候補が、その州に割り当てられた選挙人を総取りする。その合計が多い候補が当選となる。

本選挙では、有権者が選挙人団を選出し、選挙人団が大統領を選出する形態をとる。全米50州の上院下院議員数と同数名の選挙人及びコロンビア特別区3名の選挙人が、選挙人団を構成する(合計538人)。原則として、一般投票で1票でも多く獲得した大統領候補者の選挙人団が、その州の選挙人団を総取りできる。

各党のシンボルカラーにより、民主党が選挙人を獲得した州をブルー・ステート、共和党が選挙人を獲得した州をレッド・ステートと呼ぶ。そして、選挙のたびに、勝利政党が変動する激戦州をスイング・ステートと呼ぶが、オハイオ、フロリダなど14州あると言われる(出所:ThoughtCo.)。過去の大統領選は、スイング・ステートの上位州を押さえた候補が勝利した。

2016年の選挙では、トランプ候補が、選挙人の数が多い激戦州上位6州を、すべて接戦で制した。6州の選挙人の合計数114人を総取りした。その結果、総得票数はクリントン氏6,585万票とトランプ氏の6,298万票を上回ったが、選挙人数ではトランプ氏が304人とクリントン氏(227人)に圧勝した。

 

さらに、投票率の問題がある。一般に、投票率が高いのが、白人、高齢者、中高学歴者、キリスト教信者である。一方、都会の非白人(特にヒスパニック)、低所得者、低学歴者は投票率が低い。たとえば、都会で、黒人差別撤廃を主張する非白人の若者たちは、デモには熱心に参加するが、選挙には行かない傾向がある。当然、選挙に行かない人の支持は、結果には関係ない。

トランプ大統領支持率は、今年1月16~29日調査に49%(不支持率50%)と過去最高を記録した。しかし、黒人男性死亡事件の対応が批判され、6月8日~30日調査で39%(同57%)に低下した。その後、直近の調査(7月30日~8月12日)では支持率は42%(同55%)に回復した。共和党支持者の支持率は90%と高水準を維持しており、コアの支持層は盤石である。

トランプ大統領とバイデン氏と支持率の差は縮まりつつある。直近の調査(7/30~8/12)で、支持率はバイデン氏36%に対し、トランプ大統領33%と、その差はわずか3ポイントに過ぎない。これまでのバイデン氏のリードは、トランプ大統領に対する批判の受け皿という側面が強いのではないかと考えられる。6月の黒人男性死亡事件後、民衆の抗議活動が沈静化するにつれ、両者の支持率の差は縮小している。今後、両者の支持率の差の縮小が想定される。トランプ大統領は外交を中心に大胆な政策を実施すると見られる。特に、キリスト教福音派の支持を固めるためにも、中国やイランを叩き、イスラエルを支援する政策を発動する可能性がある。

トランプ支持者の中核は、米国の人口の約25%を占めるキリスト教福音派である。キリスト教はユダヤ教をルーツに持つが、とりわけ福音派はユダヤ教に強い親近感を持つ。このため、ユダヤ人国家イスラエルに対する支援と、イスラエルの仇敵であるイランを攻撃することは、福音派の票固めに有効である。

福音派は、南部や中西部の白人の低中流階級の労働者が多い。白人労働者層は中南米からの移民や中国製品の流入に対して強い反感を持ち、トランプが掲げる移民の制限、国境の壁建設や、対中国貿易政策強硬策を支持することが多い。

2016年大統領選では、白人福音派信者の81%がトランプ氏に投票した(クリントン氏16%)。白人カトリック信者でも60%がトランプ氏に投票し、クリントン氏への投票は37%だった。こうして、トランプ政権において、福音派の政治的な影響力が増している。

 

今後、3回(9月25日、10月15日、22日)にわたって行われるテレビ討論会に注目したい。雄弁で知られるトランプ大統領に対して、77歳で失言壁があるバイデン氏は論戦では不利という見方がある。

両候補の公約は大きく異なるが、一致しているのが、中国バッシングである。新型コロナウイルス、米中経済摩擦、中国による香港介入強化などにより、米国人の対中意識は急速に悪化している。

トランプ大統領は、「中国への依存を終わらせる」と題した対中国政策を公約として掲げ、中国バッシングをさらに強化する方針を示している。バイデン氏も中国に対して厳しく当たる方針を示しているものの、トランプ大統領の対中政策の方がより厳しい。今後、大統領選が激戦化し、トランプ大統領が対中強硬策を実施すれば、対抗上、バイデン氏も強硬姿勢を打ち出すことが考えられる。

 

トランプ大統領は混乱が起きても躊躇なく強硬策を実施する人物である。また、それが、トランプ大統領に対する共和党支持者の支持率が高い理由でもある。したがって、2021年以降もトランプ政権が続けば、中国やイランなどに対して厳しく対峙すると考えられる。

今後、中国の技術力の高まりとともに、ファーウェイのような米国にとって直接的な脅威となる中国企業が増えるであろう。その場合、米中貿易摩擦は日米摩擦同様、数十年間単位で続く可能性がある。

以上を総合すると、これまでバイデン氏がリードしてきたものの、次第にその差は縮まり、現在、ほぼ互角と思われる。そして、米中関係が大統領選の重要な争点になれば、中国に対してより厳しいトランプ大統領の勝機が見えてくる。世界の株式市場は順調に上昇しているが、米中関係緊張化がリスク要因であることを認識する必要がある。