DATE
2020年11月11日
GBJアドバイザリーボードメンバー 諸江 幸祐
■ 不振際立つアパレル・外出需要、好調なホーム充実需要
3月の外出自粛要請、4月の緊急事態宣言に始まったコロナ禍の実経済への影響は、特に個人消費に関連した産業に大きな爪痕を残している。4~6月期の国内個人消費は、その前の3ヵ月に比して8.2%減少。消費税の導入・引き上げやリーマンショック、東日本大震災など、個人消費を冷え込ませた過去の事例に比べても、2倍近い下げ幅である。食品小売業を除けば、1ヵ月近い休業を選択した小売店舗も多い。収益へのインパクトは言うまでもない。
トランプ政権が経済優先を鮮明に打ち出す米国では、COVID-19の累計感染者数が1,000万人に迫り、日本の10万人の100倍になっている。日本でもコロナ蔓延以降、ほとんど家を出られないという人がいるが、DX化が進んでいる米国では全くオフィスに出勤しない勤務形態が当たり前になりつつあるようだ。外出することに付随する消費需要、アパレルや化粧品、さらには外食店の不振は極まっており、JCペニーやニーマン・マーカスなどの老舗小売業の破綻を招いた。日本でもレナウンが破産手続きに入ったが、今後年末~年始に一気に破綻件数が増加するとの予想もある。
アパレル企業、百貨店などの不振とは裏腹に、自宅で過ごす時間が増え、リモート勤務の環境整備の必要も相まって、住宅環境の充実や簡単な改造を意図してホームセンターや家電専門店に向かう人が増えている。レナウンの経営再建に名乗り出るスポンサーは皆無だったが、ホームセンターのM&Aはヒートアップしている。6月、親会社が売りに出した業界6位LIXILビバにはキャッシュフローの11倍以上の高値が付き、現在は業界首位のDCMの買収提案に同意した7位島忠に、ニトリがキャッシュフローの12倍という高額のTOBを仕掛けて賑やかだ。
■ 第2四半期:百貨店・ファッションアパレルを除き小売業業績は底打ち
多くの小売業で第2四半期に当たる6~8月の業績がまとまった。コロナ自粛に影響をまともに受け大幅減収となった第1四半期に比べ、ほとんどの業種で売上が前年並み、もしくは前年を上回る回復が見受けられる。都心に店舗を構える百貨店やファッション系アパレル専門店は不振が続くが、実用衣料を得意とするユニクロのファーストリテイリングやしまむらは既存店売上が2桁近い増収、GMS業態のイオンやイズミなどでも10~20%の減収だった第1四半期から前年並み~1桁台の減収に回復している。
利益面でも改善傾向は明らかになっている。イオンやダイエーなどの店名で知られるイオンのGMS業態は、上半期354億円の巨額な営業損失を計上し、前年同期比で279億円悪化したが(前年も赤字)、第2四半期だけ見れば営業利益は前年同期わずか4億円の悪化に留まった。値引き抑制や在庫内容の改善による粗利益率の上昇に加え、オペレーションコストの大幅な削減が収益改善に寄与している。
一方で「巣籠り」に対応して一時的に大きな需要に沸いた、冷凍食品・加工食品や生活雑貨の、需要先食いの恩恵を受けた食品スーパーやドラッグストアの売上は徐々に落ち着いてきた。ウィズコロナの長期化で雇用環境に不安が残り、給与所得も減少に転じている。生活に必要なものはディスカウントストアで調達というNew Normalの生活防衛行動も顕著になってきた感がある。
■ 企業間格差が拡大
前段でコロナ蔓延後の米国小売業の破綻を紹介したが、これらの百貨店やアパレル企業は何も今年になって急激に業績悪化に見舞われたわけでない。長く業況の不振が伝えられ、常にリストラや身売り話の噂があった。日本のレナウンやペッパーフード(いきなりステーキの運営会社)も業績悪化は広く知られるところであり、コロナ禍に遭遇しなくても何らかのアクションは求められていたはずだ。つまりコロナ禍が小売業界にもたらしたものは「変化の加速要因」でしかない。
固定比率が高い小売業では、平均粗利益率を30%とすると、コロナ前で営業利益率10%の企業は10%減少で30%減益になる。営業利益が3%しかない企業の場合、10%減収で利益は無くなってしまう。短期的な減収なら耐えられるかもしれないが、ウィズコロナが2~3年間にわたってコロナ前との比較で20%の減収をもたらすとすれば、よほど内部留保がしっかりしていないと企業体として維持することが難しい。
10%~20%減収からいち早く脱却するには、企業側もEC強化やDX化の推進など、New Normalに対応した経営体制への移行が欠かせない。ところが、その移行はこれまでにない膨大な投資を伴うものが多い。営業活動からの資金供給が不足する中で、巨額の投資を求められる。利益率の高い企業が、新しい環境でも、優良な事業機会を得る可能性が高い。否が応でも企業間格差が広がりそうだ。