DATE
2022年05月13日
GBJアドバイザリーボードメンバー 原田 良治
■ 世界各国のEC化率
先ずは世界のEC化率を見てみたいと思います。
日本が8.08%(2020年)であるのに対して、世界は16.1%、一方米国は14.5%となっています。なぜ世界平均よりも米国のEC化率が低いのかという疑問が生じます。そうです、誰もが思い浮かべるのが中国の存在です。中国のEC化率は44.0%で、この数値が世界全体の数値を押し上げ、結果米国のEC化率は世界のEC化率を下回るという現象が起こっているのです。
EC化率だけではなく、実額においても日本は約12兆円、米国約85兆円に対して中国は約300兆円と突出しています。日本のEC化率は低く、中国は突出しているというのが世界のEC化率の現状です。ではなぜ中国のEC化率がこんなに高いのでしょうか?
■ なぜ中国のEC化率は高いのか
- インフラの飛躍的進化
ECにおいて重要なインフラといえば「物流」と「通信ネットワーク」です。いずれも中国は急激な進化を遂げています。物流においてはリニアモーターカーでの高速配送、ラストワンマイルにおける無人カートやドローン活用など、いずれも研究段階から実用フェーズに移行しています。
- デジタルペイメントの普及
中国においては、広い国土に短期間でデジタルペイメントが普及しました。これには2つの理由があります。1つ目は通貨の信頼性の低さを背景にした、急速なキャッシュレス化です。キャッシュレス決済比率は日本24.2%に対して中国77.3%となっています。屋台のような実店舗に加えて、各種交通機関などあらゆる消費のシーンでデジタルペイメントでの決済が可能となっています。
これを支えているのが2つ目の理由です。それはモバイル端末の飛躍的普及です。モバイル端末の急速な普及によりインターネット利用者は6.5億人となっており、これはEUの総人口と匹敵する数です。
■ 一方で、なぜ日本のEC化率は低いのか
- 日本国土、風習、環境などの外的要因
- 狭い国土面積に多くの実店舗が存在します。国土が狭い日本ではスーパーやコンビニが近くにあり、ECよりも利便性が高いというのが現状です。
- 日本企業の多くはECやオンラインに対して消極的です。ECやオンラインの促進は企業の課題と捉えながらも、ECへの進出が遅れています。
- 日本が得意とし成長が期待できるデジタル系分野においてのEC化が遅れています。
- 日本は衛生面に優れており直接手に取って選ぶ需要が高く、そのため食品、飲料、酒類のEC化率が3.31%と低迷しています。
- 日本ではWEB施策に長けた人材が不足しています。いざECやオンラインに進出しても、WEBマーケティングのノウハウを持った人材が不足しており、ECサイトを作っても集客に苦戦し売上を伸ばすことができていません。
- 人件費や燃料費が高く加えて道路渋滞も多いので、配送に時間や高い送料がかかってしまいます。
- 日本独自の商習慣が存在しています。メーカーが商品を販売する場合、商社や百貨店、チェーン店など販売形態の異なる取引先が複数存在しているため、取引条件や卸売価格の設定が複雑に絡み合っています。
- ECサイトにお金をかけたがらない企業が多いのが現状です。
- 経営者の認識の甘さがもたらす内的要因
ECに関して、私のところに来る経営者の相談の殆どが「新型コロナの影響で店頭販売が落ち込んでいる」、だから「非対面を強化しないと生き残れない」といったものです。但しそこには間違った認識が存在しています。
- EC開設は店頭出店によりも容易
- 初期投資は実店舗の出店よりも軽い
- 運用コスト(販管費)も実店舗よりも軽い
- ECに取り組めば売上規模全体が大きくなる
- 先ずは店頭にある商品をECで販売する
- 組織は基本的に店舗担当と兼務から
- バックオフィスは現状の拡張で
- ロジスティックは現状の配送に乗せる
- 経営者は「ECサイトは簡単に作れる」と考えている
言うまでもなくこれらの考えは全て間違っています。ECは店舗販売の延長線上はないのです。この認識の甘さが、EC化率が上がらない大きな要因となっています。さらには…
- 良い自社ECサイトを作れるかどうかは、経営者がいかに本気でネットショップをやろうとしているかにかかっている
- サイトさえ作ればお客さんが来てくれるだろうと認識している経営者が多い
- 自社ECサイトは集客が必須。そのためには投資(販促費)が必要
- リアルな店舗だと経費を使ってTVCMやチラシを投下、一方ECだと経費をかけたがらない企業が多い
- サイト制作からマーケティングまで全部1人に任せてしまう企業が一般的
- ネットショップを作る人にマーケティングは無理なため、パート毎に専任者が必要
ECサイトを開設するということは誰もいない山の中に出店するようなものなのです。通行人は誰もいません。自力で店舗に顧客(ユーザー)を呼び込む必要があります。さらに厄介なのは、いったん呼び込めたとしても、実店舗の場合と違いその顧客は「秒」で別のお店に移動します。
- 売上構造の違いに対する認識不足
■リアル(店頭)の場合 売上=入店客数×購買率×商品単価
■ECの場合 売上=UU×CVR×商品単価
となっており、それぞれの局面における施策は下表の通りです。意外にもこの認識が理解されていません。
■ 日本におけるEC市場の今後
日本はEC化率の伸び率が緩やかである中、中国や韓国、米国は二桁成長を遂げています。ECの市場規模という点では、以下の通り日本は世界4位ですが、EC化率の伸び率が低いため、ECの市場規模でも今後ランキングを下げることになると予測されます。
◎2017年の世界のEC市場規模ランキング
1位 中国
2位 アメリカ
3位 イギリス
4位 日本
5位 ドイツ ※2020年では、韓国が肉薄
また、繰り返し述べています通り、ECは現状の店頭販売の延長線上という思想では戦えません。
ウォルマートは以下の通り、M&Aが奏功し健闘しています。米国のウォルマートはアマゾンにも対抗できるEC戦略を構築しています。この戦略により、米国におけるECシェアも2016年2.8%から2021年7.1%に急伸長、急回復しています。
・Jet.com(ネット通販)・・・3,500億円で買収
・Moosejaw(アウトドア)・・・56億円で買収
・ShoeBuy(靴)・・・77億円で買収
・Modacloth(ビンテーシファッション)・・・買収額未公開
その他、Hayneedle(家具)、Bonobos(男性アパレル)、Art.com(アート装飾)など27社の企業買収を実行しています。店頭で扱っている商品をECで扱うという発想ではなく、企業買収により、カテゴリーごと手に入れるという戦略を展開しているのです。日本においては、M&Aという戦略は容易に展開できないと思いますが、EC化率を上げるためには以下の施策を急ぐ必要があります。
- インフラ整備
ECニーズの拡大によって、日本では配達員不足などの物流問題が発生。高速道路の隅に自動運転ができるトラックレーンを設けるなど、未来型物流でコストを下げる。
- 経営層のマインドチェンジ
ECは店頭販売の延長線上にないということを経営者が理解することが何よりも重要。一方で、経営層やユーザーの世代交代が進み、将来的にはほぼ100%オンライン化されるという考え方もあり、今からおよそ30年後が日本のEC市場のピークになるとの予測も。
- コンテンツ力の発揮
コンテンツ力という日本の強みを活かし、デジタル系分野に集中投資することによって、日本のEC化率を押し上げる効果が期待できる。
マインドチェンジ、インフラの整備などを積極的に進め、日本のEC化率を上げるということが、日本経済の復権につながると言っても過言ではないと、私は思います。