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今後の流通・小売の変化について

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DATE
2023年11月28日

GBJアドバイザリーボードメンバー 大西 洋

 

■ 流通・小売の変化について

1)サプライチェーンの変化

サプライチェーンにおいてはECをはじめとしたD2C(ダイレクト トゥー カスタマー)が台頭する中、リアル店舗では『顧客がモノづくりのストーリーを感じられる仕組み』が重要になってくるでしょう。MDPのような展開・装飾・ディスプレイ(VP)にとどまらず、モノを通じた体験価値を提案する空間や人が求められています。

2)業態の変化

小売業の業態についても特定分野の専門性を極めたカテゴリーキラーが台頭して久しく、従来型の業態の役割や立地ロケーションも変化しつつあります。最近でも銀座にオーケーストアが出店するなど「高級ブランドの街」というイメージへの挑戦的な取組みが続いています。またコンビニエンスストアの進化も目覚ましいものがあります。

さらにEC化率の向上にともない、従来型の陳列商売を展開する店舗面積は縮小を強いられ、首都圏の大型商業施設においても、あたらしい店舗展開を模索していく必要に迫られています。このような新しい価値創造においては特に百貨店業界にリーダーシップを発揮してもらいたいと思っています。

3)事業環境の変化

本来、日本人のクリエイティビティ、海外からの評価も高いのですが、慎ましい国民性からか「自らアピールする力」が弱いように感じます。

また、もともと「小売業を科学(サイエンス)する力」は強く、MD政策、顧客政策、商品分類、展開分類などは、今後もAIによる需要予測やDX・メタバースなどによって更に精度を上げていくでしょう。

この2つの力を兼ね備えた人財を業界全体で育てていくことがとても重要であると考えています。

 

■ 生活文化・観光の産業化について

1)生活文化の産業化

日本の各地域には匠、職人技、技術力が眠っています。このプレゼンスを高めて世界に発信することで地方に経済循環を促すことが重要です。生活文化が輸出産業の一翼を担うレベルになることが国力増強に寄与すると考えています。『よいモノをより安く』という戦略もありますが、『よいモノを適正な価格で売ることで持続可能性を守る』ことも今後ますます重要になっていきます。

2)観光の産業化

中国本土に免税エリア(海南島)が作られ年間免税割当額が10万元に増額されたことで、今後は中国人の海外消費が減少することが予想されます。一方で、ライフスタイル型の体験消費が増えることを踏まえると現状インバウント3,000万人の消費額4.5兆円=単価15万円(国土交通省19年年次報告)を倍にすることは可能です。旅客数に対していかに単価を上げられるかが重要です。

3)富裕層への対応

都市型百貨店の直近の状況では、国内外富裕層による購買が急速に活発化しているように見えます。特に宝飾・時計などは従来売上シェア約5~7%が、倍以上に伸びています。一方、ファッションは横ばいで、化粧品は微減のようです。

『いつもよりちょっと贅沢』なモノ・コトへの潜在欲求をいかに具現化するか、顧客の心に触れる提案をいかにできるかが今後の重要な戦略になっていくと考えています。この点において、『食』は、サプライチェーン高度化、フード&アグリテクノロジー、テイスト×グレードの幅広い提案、地方銘産(クイックデリバリー)等で顧客の期待を大きく上回ることができるカテゴリーであると思います。

 

■ 街づくりへの期待

1)大型商業施設の同質化

首都圏の大型商業施設の同質化は大きな課題であると思います。従来、商業の一等地であった場所でも独自性が無ければ、評価されず閑古鳥状態になってしまいます。そんな中で、ファッション、アート、カルチャー、デザインなどについては街づくりにおけるコンテンツになることで魅力度を高め、活性化に繋がります。今後、日本・東京の大きなプレゼンスになっていくでしょう。TCS(東京クリエイティブサロン)のような取り組みはファッション×街の提案として大きな役割を果たしています。昨年より羽田空港も提案エリアとして名乗りを上げることにしました。

2)多様性への対応

また、11月に開業した麻布台ヒルズでは従来型の展開分類とは大きく異なり、多様性の時代に向けた新しい提案として注目しています。「アート&デザイン」(アート、カルチャー、アニメ等)が明確になっており、ファッション+飲食+雑貨+化粧品などが一体化して、周辺コーナーに何があるのか期待感が高まる工夫がされています。

 

■ ジャパンラグジュアリーを立ち上げた狙い

1)ジャパンラグジュアリーへの想い

百貨店経営の経験から海外ブランドとの付き合いが長かったのですが、一方で国内の繊維・ファッションや伝統工芸品、食といった地方のモノ作りに触れる機会もたくさんありました。日本のモノ作りは品質の高さはもちろん、ストーリー性も感性も魅力的なのに、多くの地場産業は危機に瀕しており実にもったいない状況でした。

突破口は、海外にマーケットを広げることとイノベーションを生み出すことです。これは昔から私の持論で、百貨店時代から微力ながら地場産業の皆さんと取り組んできたことです。「Japan Mastery Collection(JMC)」では地方の歴史や文化に裏付けされたモノづくりを産業化し、作り手に還元できる仕組みに取り組みます。世界で評価され、作り手にお金が回り、後継者も集まる、そんな循環をつくっていきたいのです。

2)価格の適正化

「JMC」は海外ラグジュアリーブランドと同じ土俵で闘うつもりです。あえて空港免税ゾーンのディオールの隣に出店しました。都心のショッピングセンターでは日本発の新ブランドがディオールの隣に出店できることはまずありませんが、今回はそれが叶いました。

単に高い値段を設定すれば良いわけではない、お客さまにそれが適正な価格だと理解されるブランディングが不可欠です。日本の生産者は高品質かつ独創的なモノ作りは得意なのに、ブランディングが上手ではなかった。ここを私たちがサポートしていきます。

ジャパンラグジュアリーというグレード感をお伝えしていくことが我々の使命です。その名前に値する感動を提供できるか、基準に満たない商品が少しでも入れば、お客さまはラグジュアリーだと認めてくださいません。それくらい徹底して取り組まなければブランドとして成立しないのです。

 

■ おわりに

ファッションに関わってきた1人の人間として、流通・小売業界が今後も日本の国力を高めていくためにリーダーシップを発揮して頑張って欲しいと切に願っています。

コロナ禍で今までにない経験をしましたが、リカバリーにあたって、目先の売り上げにとらわれることなく、また海外ラグジュアリーブランドに依存するばかりではなく新しい価値を生み出していきたいと考えています。アート、デザイン、カルチャー、とりわけ、すべての象徴となりうる『ファッション』は日本にも競争力があり、ポテンシャルも高いはずです。

これらのポテンシャルあるコンテンツをオールジャパンで産業化していくことが我々関係者に課せられたミッションであると考えています。