DATE
2020年04月22日
ゴードン・ブラザーズ・ジャパン バリュエーション部 ヴァイスプレジデント アリ タマット
世界各国は新型コロナウィルスの蔓延に大きな打撃を受けている。世界保健機関(WHO)によると、中国武漢市で2019年12月に発生してから、2020年4月19日までに感染者数が約220万人、210以上の国と地域に広がった。死者数は15万人以上で、アメリカがそのうち3.2万人となっている。
経済に対してもその影響が多大である。各国は、新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込むため、都市封鎖(ロックダウン)や企業活動の停止、交通と航空の制限を実施した。中国では、2020年1月~3月までのGDPは去年の同じ時期に比べてマイナス6.8%となった。同時期には、自動車の販売台数が40%余り減少し、小売業の売上高が15.8%と大きく落ち込んだ。4月から徐々に経済が再開しつつあるが、世界の工場と言われる中国南部の製造業では海外からの受注が減って生産が落ち込んでおり、国内の感染の勢いはおさえられても経済のV字回復の行方は見通せていない。
国際通貨基金(IMF)は4月14日に発表した世界経済見通しで、2020年の成長率予測をマイナス3.0%に引き下げた。1929年に始まった「大恐慌以来の経済悪化」となる懸念があると指摘した。リーマン・ショック後の2009年のマイナス0.1%よりも大幅に悪化すると見込んでいる。
IMFによると、新型コロナウイルスの流行は、供給面と需要面の二重のショックを伴っている。供給側では、労働供給の直接的な減少が見られる。封鎖や隔離を伴う感染拡大封じ込めの取り組みが設備稼働率低下を招いていて、経済活動に一層大きな影響を及ぼしている。さらに、サプライチェーンに依存する企業は、国内外からを問わず必要な部品を調達できなくなっている可能性がある。あらゆる製品のサプライチェーンは中国での寸断が理由で、その下流に位置する企業で連鎖反応がすでに起こっている。全体として、こうした寸断により事業コストが高まり、負の生産性ショックが発生し、経済活動が低下することになる。
そして、消費者と企業が支出を控えており、需要が低下している。所得の喪失や感染の恐怖、不確実性の高まりによって、人々は支出を減らすことになる。企業が賃金を支払えなくなれば、労働者は解雇されるかもしれない。こうした影響は、観光業など一部業界で特に深刻になりうる。こうした業界別の影響に加えて、消費者と企業の景況感が悪化することにより、企業が需要低下を予測し、支出と投資を減らす可能性がある。このことは、廃業や雇用喪失に拍車をかけることになるだろう。
大和総研の予測(4月3日発表)では、日本経済にとってもリーマン・ショック以上の打撃を与える可能性がある。緊急事態宣言による、経済活動の自粛による個人消費への減少効果は、外食・宿泊の支出が約9割減、交通と娯楽・レジャー・文化への支出が半減すると想定されている。
今後、緊急事態宣言の全国への拡大、更にもう一段の経済活動の自粛が強化されれば消費が更に抑制されることが予想される。4~6 月前後に世界各地でウイルスの流行が収束しても、日本の実質 GDPは、この問題が起きなかった時と比べて、21.7 兆円~40.4 兆円程度減少すると試算されている。、日本の実質 GDP 成長率は 2020 年で▲3.9%~▲7.4%と見込まれている。
リーマン・ショック発生後の2009 年の実質 GDP 成長率が▲5.4%であったことを勘案すると、今回の問題は、日本経済にリーマン・ショックに並ぶ打撃を与えるリスクがあると予想される。この危機をいかに乗り越え、通常の経済活動と成長を取り戻せるのか、政府の政策を含めたオールジャパンでの対応が急務であることは間違いない。
(参考URL)
WHO(世界保健機関):
・Coronavirus (COVID-19) https://covid19.who.int/
IMF(国際通貨基金):
・「大封鎖」 大恐慌以来最悪の景気後退
https://www.imf.org/ja/News/Articles/2020/04/14/blog-weo-the-great-lockdown-worst-economic-downturn-since-the-great-depression
・新型コロナウイルスの経済的影響 的を絞った大規模な政策で影響抑制
https://www.imf.org/ja/News/Articles/2020/03/09/blog030920-limiting-the-economic-fallout-of-the-coronavirus-with-large-targeted-policies
大和総研:
・コロナ・ショックと世界経済
https://www.dir.co.jp/report/research/economics/outlook/20200403_021439.pdf