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B/Sに記載されている商品在庫価値の真実性、P/Lの売上総利益率と利益そのものの真実性

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DATE
2019年06月26日

GBJアドバイザリーボードメンバー 桝田 直

■ はじめに

人が生きていく為には、きれいな血液が心臓から送り出され、留まることなく、逆流することなく、身体のすみずみまで流れていなくてはならない。同様に、小売業が生存していくためには、常に“新鮮な商品”が店舗に供給され、長期間留まることなく、出来るだけ早くお客様に買っていただける状態に常になっていなくてはならない。もちろん、返品や持ち越しの為に、店舗から取引先や物流センターに逆流しているようなことが発生しておれば、その企業には大きな持病がある。
商品在庫は小売業の血液であり、この血液が流れ、回り巡っていないと死んでしまう。回っていない商品は不振在庫となり、やがて沈殿在庫となる。沈殿期間が長期間となると宿便在庫となって売場に異臭を放ち、店を、企業を腐らせていく。
小売業は、出店や自社商品開発といった華やかな分野にどうしても目が行ってしまう。売上拡大に追われ、在庫が回っているか否か、在庫が適正か否かということは、二の次・三の次になってしまう。しかし、そのような小売業が、在庫を抱えて金も首も回らなくなり、バタンと倒れてしまった実例を私はたくさん見て来た。
ということで、今回は、在庫の“そもそも”を述べてみたい。

在庫は、価値ある財庫か?

これらバタンと倒れてしまった小売企業の全てが、B/Sに記載されている在庫(帳簿在庫)価値と実在庫価値が大きくかけ離れていた。「魚は頭から腐る。小売業は在庫から腐る。」と言われるが、その通りの状況になっていた。B/Sに記載されている在庫は、その記載金額に相当する「価値ある財庫」でなくてはならない。しかし、実際は、当該帳簿価値よりも低い価値しかない「罪庫の山」になっていた。
昔、私を育ててくれた大恩人から、「業績不振に陥った小売企業を買収する際、在庫は、半値八掛け目方買いせよ!」と教えられた。その業績不振に陥った小売業の社長として再建の仕事を行った際、その教えの意味を実感した。再建の一歩は在庫の処分整理から始まったのだが、「帳簿上に記載されていた在庫金額は、なんなんだ?」と呆れるほどの価格でしか処分販売できなかった。廃棄物としてお金を払って処分しなくてはならないゴミ商品もあった。
また、某社を買収する際、商品台帳を持って店舗に出向き、抜き取りで在庫評価を行ったが、年式が旧くて最早その価格では売れない商品が、発売当初の売価で陳列・販売されていた。
このような実体験から、「商品が、正しい売価で、適正な量、在庫されているか否かに気と目を配ること」は、小売企業が健全に生き、成長して行く上で必須であることを学んだ。

■ 正しい売価(正価)設定がされているか?

小売業の多くは、売価還元法(含:売価還元低価法)によって期末在庫資産評価額を求めている。
B/Sには、この方法で求められた金額が載っている。当然、会計上認められている在庫資産評価方法で求めた在庫金額なのだから、皆、その額は、「正しい」「金額相当の財産価値がある」と思っている。確かに、会計上正しい。ところが、前述のようなことが起こっている。それが実態、現実である。
そもそも売価還元法は、売価を還元して期末在庫の資産価値額(原価額)を求める方法である。それ故、評価した金額の正しさは、個々の商品の「売価が正しい」ことを前提としている。「正しい売価」、即ち、「正価」は、作り手や売り手が付けた「売る価格」ではない。「お客様に買っていただける価格=買価」のことである。
従って、「いつも半額セールや割引販売している商品(お店)」、「実質割引となる多くのポイントを付与している商品(お店)」、「今だけ、値札よりも割引した価格で…と訴求販売しているものの、いつも、値札よりも低いその割引価格で販売している商品(お店)」が、値札に記された売価で棚卸を行い、その売価額から期末在庫資産の評価額(原価額)を求めていたとするとどうだろう。
また、このような計算結果から求められた売上原価率、その売上原価率を使って算出した売上総利益率、そして、利益そのものは正しいのだろうか。
昔から、「売価はお客様が決める」と言われる。お客様に成り替わって売価設定をすること、それは、正しい在庫資産評価、損益計算をする為の前提である。

適正な在庫量になっているか

最近、多くの小売業がPB商品開発に注力している。品揃えの差別化という目的もあるが、「粗利益率(売上総利益率)を高める為に!」というのが本音でもある。この為、PB開発担当者には、「一品当たりの商品原価を引き下げる為に、どうしても“多くつくりすぎる(多く注文・生産し過ぎる)”」という力学が働く。結果、消化し切れない、余ってしまうという状況に陥る。
もちろん、見切り処分(売価を下げる)をして量を減らせば良いのだが、そうすると粗利益率が低下してしまう。この為、当初売価のまま在庫し、当初売価で棚卸しをしているケースが程度の差はあれ結構ある。会計士も目を光らせるが、彼らに売価や商品在庫の妥当性・合理性はわからない。
昔から、「合計でなく、一つ一つの商品の回転を見よ!」と言われるが、前述した個々の商品の売価とともに、個々の商品の量(商品在庫)を適正に維持管理することは、正しい資産評価、損益計算をする為の前提である。

慢性的在庫過多症を患っていないか

さて、ご存知の方も多いと思うが、「在庫粗利」という言葉がある。
それは、実際に売れているのは、原価率が高い(値入率が低い)安価な商品ばかりだけれども、原価率が低いあまり売れていない商品が在庫として多くある。その為に、期末在庫原価率も売上原価率も低くなり、売上総利益率が高くなる。そして、利益が大きくなるという状態になる。
決算期直前に仕入量を増やす。しかも、原価率の低い商品を多く仕入れ、当期の売上総利益率を計算上・会計上で高くなるようにするという知恵を働かせる者が出て来る。この悪知恵(浅知恵)は癖となり、企業に蔓延すると慢性的在庫過多症を患うことになる。
このような状況に陥らないよう、商品担当(商品開発担当やバイヤー)を一定周期で入れ替え異動させている企業がある。商品在庫を回転させる為に、商品担当を回転させている。新任商品担当は、前任者が処分に踏み切れなかった在庫を堂々と処分する。在庫過多に陥っているのは自分の責任ではないこと、在庫過多のままでは新しい商品を投入して品揃え変更をすることが出来ないことから、まず、在庫の処分・適正化の為に「稟議書」を書くことが着任直後に行う仕事になっている。

在庫が腐りかけている兆候が出ていないか

過去、私は、瀕死常態にある数社の小売業の立て直しに直接・間接的にたずさわって来た。これら企業に共通していたのは、次のようなことだ。

    • 「こんな商品にこの売価が……。売れるわけないだろう!」と首を傾げる売価設定がされている商品が多い
    • 売れているのは一部の原価率の高い安売りしている表層商品。それ故、実際に売れた商品の粗利益率(POS粗利益率)は低い。それなのに、売価還元法で求めた売上総利益率は高い
    • 在庫回転率が低く、まったく売れないノンアクト商品が多い。結果、逆回転差資金が発生しており、在庫と借金の重みに経営が圧せられている
    • 販売している商品のカテゴリー、品種が多過ぎる。様々な原価率の商品が多いにもかかわらず、これらを数部門の少ない単位で売価還元法によって期末在庫原価率を求めている
    • お客様がいつも買っている実質的購入価格と、値札・プライスカードの価格が異なっている
    • 個々の商品(単品)を数量で見ず、合計や平均した金額だけしか見ていない

このような兆候が出ておれば、B/Sの在庫金額、P/Lの売上総利益率、利益は正しいとは言い難い。

最後に

小売業は、お客様に成り代わって商品の調達を行い、それをお客様の手元へお届けするまでの間にそのポジションを置く。それ故、「商品在庫は、お客様からの預かりもの」と考える。お客様から預かっているのだから、その価値(価格)はお客様が決めている。預かっているのだから、その商品在庫は、必ず、しかも、早く、お客様に引き取ってもらわないといけない。
ということで、是非、「商品を預けているお客様」になって、売場の商品とバックルーム、そして、物流センター(倉庫)にある商品の「売価」と「量」を、視て・診ていただきたい。それは、「在庫とは何か?」、「誰の為の在庫なのか?」、「何の為の在庫なのか?」、そして、「B/Sの在庫金額」と「P/Lの売上総利益率と利益」の“真実性”について考える切っ掛けになるはずだ。