DATE
2020年02月20日
ゴードン・ブラザーズ・ジャパン リテール
マネージングディレクター 護田 健一
■ はじめに
東京商工リサーチが1月に発表した2019年年間の「全国企業倒産状況」によると、負債総額は過去30年間で最小だったものの、倒産件数はリーマン・ショック時の2008年以来、11年ぶりに増加に転じた。フォーエバー21やバーニーズ・ニューヨークなど日本でもよく知られたアメリカ企業による破産法申請がなされた昨年のニュースは記憶に新しいところだろう。
アメリカでは企業が破産法を申請すると、裁判所の管轄下で専門企業が在庫の処分業務を受託することが一般的で、専門企業が在庫の処分を行うことにより、無駄なく、より良い結果が債権者に還元されている。日本ではまだまだ馴染みのないやり方であるが、弊社では米国ゴードン・ブラザーズのノウハウも活用しながら国内企業の倒産時における在庫処分業務を請け負うことも多く、実際の事例を基に外部の専門企業に委託する意義について解説したいと思う。
■ 破産時における在庫換価
ある雑貨小売企業が破産手続き開始決定を受け、破産管財人が選任された。日本では、破産した会社の従業員の協力が得られないと店舗の継続運用が難しい為、店舗を活用した換価(在庫処分)よりも入札による換価が一般的になっており、この破産管財人も入札による全量換価を想定していた。
仮入札を行い数千万円のビッド(買い手の希望価格)が提示されたが、弊社の在庫換価サービスについて以前から紹介を受けていた管財人であったため、仮入札の金額以上に換価額の最大化が図れる換価手法はあるか、と弊社に相談があった。
弊社は3つの手法を組み合わせた換価手法を提案し、当初管財人が想定していた仮入札の金額より弊社が想定する予測換価総額が上回っていたことから、在庫換価の破産管財人補助者として換価のアドバイザリー業務を受託することとなった。
■ 既存店舗の再オープン
まず弊社が取り掛かったことは、倒産した企業の既存店舗があるディベロッパーとの交渉である。既存店舗にて閉店セールを実施し、在庫を適切にディスカウントしながらエンドユーザーに直接販売することで換価額を最大化するためだ。
ディベロッパーは通常、再度店舗を開けて閉店セールを実施する事には強い難色を示すことが多い。出来るだけ早く次のテナントを誘致し収益化を図るため、破産管財人に対して早期の退店を望んでいるのだが、弊社には過去の取り組みによるディベロッパーとのリレーションがあるため、閉店セール実施に向けた交渉が可能となる。
また、セール実施の障害となる販売員不足の問題においても、全国各地の販売委託会社と連携し、すばやく手配することも可能だ。
さらには、通常企業が倒産した場合には追加の在庫を投入することはできず、人気の高い商品から売れていくため商品構成が偏り、購買意欲の湧きにくい売場となってしまうことが多いが、専門企業が閉店セールを運営することで、他の商品を追加投入することが可能となり、対象の在庫を売り切るための魅力ある売り場を保つことができるようになることも、外部の専門企業を使うことのメリットの一つだろう。
■ 販売キャパシティの充足
次に、販売キャパシティの不足を補うため、弊社の取引先7社32店舗への委託を行った。閉店セールを実施している既存店舗だけでは販売可能なキャパシティに限界があり、限られた期間の中で、よりエンドユーザーに近いところで販売することで換価額を高くするためである。
既存店舗以外で販売をしようとする時に大きなネックとなるのが、対象商品の販売が可能な委託先会社の選定と売上金額の回収である。限られた期間の中で新規の販売先と契約することは難しいが、弊社は従前より商品提供をしている委託先数十社と契約しているので、その中から対象商品の販売に適した委託先に短期間で振り分けることが可能となる。
■ 在庫の全量換価
販売期間に余裕のある場合であれば、店舗を活用しエンドユーザーに販売することが一番ではあるが、破産時等、すべての在庫を処分するまでに時間が限られている場合には、入札会を使った一括換価も必要となる。
今回の場合も、破産管財人より5か月以内ですべて終了させたいとの要望があり、店舗での販売期間を4か月とし、残在庫については最後の1か月で入札会を用いて換価を行った。
店舗での販売を終了し、残在庫を各販売拠点から回収したのち、回収した在庫を整理したうえで買い手側が買いやすいよう7つの入札単位に設定した。あまり買値が高すぎるとバイヤーが購入に参加しにくい傾向にあるため、商品を見ながら買いやすい単位に分け選定を行う。こういった買値の選定も専門企業だからこそのノウハウといえるだろう。
既存の販路、弊社がもつ販路、入札会の3つの手法を組み合わせ期限内に全量の在庫換価をおこなった結果、当初入札のみ全量一括の換価で想定していた数千万円の金額に対し、売上額合計は240%となり、販売に係るすべての経費、弊社への報酬を差し引いたうえでも当初想定の177%となる金額が破産財団へ還元されることとなった。
■ 外部専門企業の活用
企業の倒産を従業員は突然知らされることも多く、今後の保障について不安や不満を抱いているなか、店舗での最後の販売に協力的な従業員は決して多くはない。そのような状況下では、なるべく早く簡単に処分を進めるため、全量一括での売却を選ぶのも致し方ないようにみえる。
しかし、外部の専門企業に委託し多様な販売手法を活用することによって、在庫の換価額は極大化され、より多くの利益を債権者に還元することができるようになり、また換価業務に必要な実務をアウトソースすることで破産管財人の負担も軽減され、他の業務により専念することもできるようになる。
今回の事例では、既存店舗、弊社販路、入札会の3つの手法を組み合わせた場合を紹介したが、倒産企業の規模、既存の販路、商材、商圏、期間など条件が変わった場合にはそれに適した手法、割引のコントロール、販促方法が必要となってくる。我々のような専門企業にはさまざま商材、シチュエーションに合わせた最適な換価シナリオのノウハウが蓄積されており、企業の倒産時だけではなく、戦略的な事業撤退や、店舗縮小、また海外事業の撤退時など幅広い機会で活用されている。