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譲渡制限特約付債権が担保になる
~2020年4月1日民法(債権法)改正~

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~2020年4月1日民法(債権法)改正~

DATE
2020年03月24日

ゴードン・ブラザーズ・ジャパン ファイナンス&インベストメント
シニアマネージングディレクター  堀内 秀晃

■ はじめに

新型コロナウイルスの影響で、株式市場を始めとし各市場は大きな影響を受けているが、実体経済への影響も徐々に表面化してきている。人々の移動や大規模イベントが制限されたことから、ホテル、旅館といった宿泊施設、交通機関や観光関連産業、飲食店等は直接の影響を受けている一方で、消費者が外に出向いて買い物をしなくなったことから、実店舗を運営する小売業の売上げが減少しているものと思われるので、今後、資金繰りが厳しくなるところが増加するものと予想される。

資金繰りの繁忙化に伴う資金需要に対応する事業再生ファイナンスは、無担保で応じることは難しく、また既に不動産等は既存借入の担保に提供されていることが多いので、売掛債権を担保とすることが検討される。売掛債権はその債務者(以下「第三債務者」)の信用面に問題がない場合、支払われる可能性が高く、価値のある担保となる筈であるが、多くの売掛債権について、販売先(すなわち第三債務者)との間の元の契約(以下「販売契約」)に、譲渡を禁止または制限する特約が入っており、このため譲渡ができず、譲渡担保権が及ばないということになっていた。したがって、従来の売掛債権担保融資では譲渡を禁止する特約が付いていない売掛債権のみが担保の対象となってていた。

しかし、2020年4月1日に改正民法(以下「改正法」)が施行されることに伴い、債権の譲渡を制限する特約(以下「譲渡制限特約」)が販売契約に入っていても、法的に譲渡は有効となり、譲渡担保権が及ぶことになる。これにより、譲渡制限特約が付いていない売掛債権に加えて、譲渡制限特約が付いている債権(以下「譲渡制限特約付債権」)も担保として活用して中堅・中小企業の資金調達の円滑化を図ろうというのが、その趣旨である。

今回の改正により、譲渡制限特約付債権の譲渡を法的に有効とする一方で、譲渡制限特約自体を無効とはしていないことで、下記の通り第三債務者への保護も図られているのである。そのために、担保権者や借入人にとっての別のリスクが指摘されている。

改正法の下での譲渡制限特約付債権の取り扱い(第三債務者の立場)

売掛債権の第三債務者は改正前の債権法の下での譲渡禁止特約(改正後の譲渡制限特約と同義)によって①債権者(支払う相手)を固定することで事務手続きの煩雑さを抑える、②債権者との間に反対債権があれば、相殺できる、③売掛債権が二重、三重に譲渡された場合の二重払いのリスクを回避できるといったメリットを享受してきた。

改正法においても、第三債務者は売掛債権が譲渡された後も元の債権者である譲渡人に支払うことで責任を免れる(以下「弁済先固定の利益」)ことになるので、①と③については手当てがされている。加えて③の二重払いのリスクについては、第三債務者は弁済資金を供託することもできる。また、②の相殺については改正前の債権法よりも寧ろ範囲が拡大している。

つまり、改正法では、第三債務者の既得権を害しないように配慮されている。特に弁済先固定の利益により、第三債務者は仮に担保権者から担保権者宛に支払うようにとの通知を受領しても、引き続き、売掛債権の決済代金を借入人に支払えばよいので、第三債務者と借入人の間では実質的には譲渡制限特約が有効に機能することで、第三債務者は既得権を実質的に確保できていると言える。

しかし、譲渡制限特約付債権の譲渡を有効としつつ、譲渡制限特約を無効としないというこの言わば妥協の産物的なルールにより、借入人に新たなリスクが発生する。

改正法下での譲渡制限特約付債権担保融資の懸念点(借入人の立場

改正法の下では譲渡制限特約付債権の譲渡が有効になるので、これの譲渡を行うことで、借入人は売掛債権担保融資を受けることが可能になる。しかし、譲渡制限特約自体も有効であるので、譲渡制限の付いた債権を譲渡するという行為は、譲渡人であるABLの借入人はその販売先(第三債務者)との販売契約の中にある譲渡制限特約に形式的に違反することになるのではないかという懸念がある。

譲渡後に販売先である第三債務者が登記等によって、自らが債務者となっている売掛債権が譲渡制限特約に反してABLの貸付人に譲渡されたことを知った場合、販売契約の譲渡制限特約付違反を理由に販売契約を解除することを主張するかもしれない。また、もし、契約違反が理由で契約が解除された場合に販売先から損害賠償請求を受けたり、違約金を支払うことが販売契約に定められていると、違約金を請求されたりする可能性があるという意見もある。

特に、「譲渡制限特約に反して、(第三債務者である)販売先の同意を得ずに債権が譲渡された場合は、(第三債務者である)販売先が契約を解除できる。解除された場合は、(借入人である)販売者が(第三債務者である)販売先に対して違約金を支払う義務がある」といった内容の条項が販売契約にある場合は、この解約条項の有効性が争われることになる。もし、譲渡制限特約付債権の譲渡を行った後に販売契約が解除されたり、借入人が金銭的債務を負わなければならなかったりすると、譲渡制限特約付債権の譲渡に消極的になり、資金調達の促進の障害となってしまう。

借入人の懸念点に関する考え方

上記の懸念点については、経済産業省のホームページで法務省の見解として以下の内容が紹介されている。

譲渡制限特約付債権の譲渡が有効であるとしても、同特約に違反したこと自体を理由に、債権者・債務者間の契約が解除されてしまうのではないかという懸念の声がある。これに対しては、改正法では、債権が譲渡されても、債務者の弁済先固定の期待は保護されていることと等を理由として、以下のような法務省の見解が出ている。

  • 資金調達目的の債権譲渡については、契約の解除や損害賠償の対象とはならない。
  • 譲渡されても特段の不利益がないにもかかわらず、取引の打切りや解除を行うことは、極めて合理性に乏しく、権利濫用に当たり得る。

参照先:経済産業省ホームページ「債権法改正を踏まえた解釈・取扱い」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/ABL/14_1.pdf

上記の見解は、改正により債権を担保とした資金調達の促進を図ろうという法改正の趣旨に沿ったものと評価できる。

売掛債権を担保に資金調達を行いたい企業は上記の法務省の見解を参考にして、安心して譲渡を行って欲しい。また、第三債務者も、譲渡制限特約付債権が譲渡されたとしても、支払先を変更する必要はなく、譲渡前と何ら変わりはないので、これを理由として販売契約を解除しようとしたり、損害賠償を請求したりすることをせず、中堅・中小企業の資金調達に協力する姿勢をみせるべきである。

■ おわりに

改正法によって、譲渡制限特約付債権の譲渡が可能になることから、これを担保にした資金調達も可能になる。一方で、上記で解説した懸念があるが、第三債務者が改正前に有していた利益・便益は改正後も主に弁済先固定の利益により確保されていると言える。したがって、法務省の見解にある通り、第三債務者も債権譲渡に協力することが改正の趣旨に沿うことになると言えよう。第三債務者が債権譲渡に反対しないことによって、借入人は安心して債権を譲渡することができ、債権担保融資が促進されることになる。こういった動きになり、改正法下で譲渡制限特約付債権の有効活用による債権担保融資の促進が図られることを願いたい。

 

(参考文献)
井上聡、松尾博憲(編著)
三井住友フィナンシャルグループ、三井住友銀行 総務部法務室(著)
「practical 金融法務 債権法改正」(第7章 債権譲渡)一般社団法人金融財政事情研究会
堀内秀晃 「民法改正と譲渡制限特約-ABLレンダーの視点より-」金融法務事情2031号