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コロナを乗り越えて世界の株式市場は復活する

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DATE
2020年05月19日

GBJアドバイザリーボードメンバー 藤田 勉

 

新型コロナウイルス(以下、コロナ)の蔓延で、世界は危機にある。感染者数は382万人、死者数27万人と、歴史に残るパンデミックとなった(5月6日時点)。

現在、コロナの感染が最も拡大しているのが米国であり、感染者数は120万人超、死者数7万人超と、世界の中でも群を抜く。特に、経済の中心地であるニューヨーク州が全米のコロナ感染者の26%、死者が35%を占める(出所:State and county health departments)。全米全体の死者数の19%(13,938人)がニューヨーク市であり、これは桁外れに多い。ちなみに、ロサンゼルス郡(ロサンゼルス市を含む)の死者は1,313人にとどまる。

しかし、人類は、戦争や疫病禍など危機を糧に科学技術を発展させてきた歴史がある。19世紀に、世界的にコレラが大流行し、欧州では数百万人が亡くなった。しかし、これを契機に、細菌学、免疫学、医療技術が飛躍的に発展した。

ロベルト・コッホ(ドイツ)は、1882年に結核菌、1883年にコレラ菌を発見した。1894年に北里柴三郎がペスト菌、1898年に志賀潔が赤痢菌を発見した。この時期に、マラリア、腸チフス、破傷風、ハンセン病などの病原菌が発見された。1879年に、ルイ・パスツール(フランス)は、ワクチンの予防接種法を開発し、顕微鏡、注射器、体温計など医療機器も発達した。こうして、この時期に近代医学が確立した。

同時に、コレラは街の形も大きく変えた。19世紀に、産業革命で栄えた英国の大都市では、労働者が上下水道やトイレのない劣悪な住居に密集して住んでいた。ロンドンではコレラが3度大流行し、多くの人が命を落とした。

1898年に、エベネザー・ハワードは田園都市構想を提唱した。ロンドン郊外に労働者居住用のニュータウンと通勤用鉄道が建設され、これにより人々の生活環境は大きく改善した。1918年に、渋沢栄一は日本にこの構想を持ち込み、田園都市株式会社(東急のルーツ)を設立した。これが東急電鉄となって、現在の田園調布や東急田園都市線の土台となった。

同様に、コロナ後に我々の生活は大きく変わるだろう。通信性能が向上すれば、会議やビジネス出張のほとんどはビデオ会議で代替できるだろう。テレワークの推進により東京に一極集中する必要がなくなれば、軽井沢やニセコから仕事ができるようになる。今後、第二の渋沢栄一の出現に期待したい。

 

コロナについて楽観視できないことは確かだが、以下の理由から、極端な悲観も避けるべきである。

第一に、コロナは制御可能である。中国では国内の新規有症状感染者がゼロになった。すでに、中国は政府高官が「感染拡大は遮断できた」と公言しており、実際に経済活動も戻りつつある。ロックダウンはコロナ対策として有効である。コロナの発信源である武漢は1月23日に始まった封鎖が4月8日には解除された。

第二に、気温が上昇すれば、高齢者の体力が回復し、かつ換気を十分に行えるようになるため、感染が抑制されることが期待される。

第三に、ワクチンや治療薬の開発が進むとみられる。米国のジョンソン・エンド・ジョンソンはワクチンを1年以内に開発できる見込みである。

悲観論者は、1918年に発生したスペインかぜが3年連続ぶり返したことを挙げて、コロナも繰り返すと予想する。しかし、100年前よりも世界の医学ははるかに発達している。治療薬とワクチン開発が成功すれば、スペインかぜ同様、コロナも終息は可能である。

世界の株式相場は、米国を中心にV字型に回復しつつある。3月安値から4月末(以下同)まで、米国(S&P500)の株価上昇率は30.2%と、欧州(ストックス欧州600指数)の21.6%、日本(TOPIX)の18.4%を上回る。米国の戻り率は58.8%と半値戻しを達成した(日本は44.6%)。コロナ終息には少なくとも1年はかかるだろうが、株価は1年程度先を読んで動くので、今後の世界景気悪化は織り込み済みである。

2020年代の世界の株式相場の牽引役は、サイバー企業となろう。在宅需要増の恩恵を受けるアマゾン・ドット・コム(年初来上昇率28.6%、時価総額130兆円)、ネットフリックス(同30.2%、同20兆円)は、4月に連日のように史上最高値を更新した。IT需要増の恩恵を受けるマイクロソフト(同10.4%、同146兆円)の年初来時価総額増加額(36兆円)は世界1位である。

世界の自動車株は軒並み急落したが、テスラの株価は年初来86.9%上昇した。時価総額は16兆円と、いよいよ世界の自動車業界1位のトヨタ自動車(22兆円)の背中が見えてきた。テスラは、移動体通信でソフトウェアをアップグレードすることによって機能を高めることができるサイバー企業である。

日本の株式市場でも大きな地殻変動が起きている。自動車や金融の株価が大きく下落する一方で、サイバー関連株や薬品株は大きく上昇している。

サイバー企業の代表格は、ソニーと任天堂である。過去1年間の株価上昇率(以下同)は、ソニーが33.0%、任天堂が17.5%である(TOPIXは9.5%下落)。いずれも、オンラインで楽しめるゲームを開発し、サブスクリプション(月額定額型)サービスが成長源となりつつある。

2020年代のサイバーの中核技術は、第5世代移動体通信(5G、4Gと比べて通信速度が100倍)である。世界の通信事業者の中でも、NTTドコモの株価上昇率は30.6%、KDDIは22.4%と高い(AT&T 1.6%下落、ボーダフォン 21.0%下落、ドイツ・テレコム 11.0%下落)。

さらに、医薬品やバイオテクノロジーも注目される。富士フイルム富山化学のアビガンが有望とされるが、中外製薬のアクテムラ(リューマチ治療薬)も注目される。中外製薬は世界最大級の製薬会社ロシュ・ホールディング(スイス)の連結子会社であるが、ロシュもアクテムラの臨床試験を実施中である。

株価上昇率は、ロシュ(時価総額33兆円)が24.9%、中外製薬(同7兆円)は82.0%と高い。中外製薬の時価総額ランキングは1年間で32位から8位(KDDIに次ぐ)まで急上昇した。北里柴三郎以来の歴史と伝統を持つ日本の医学にも大いに期待したい。

2020年代に、世界に通用する技術力を持つサイバー企業とヘルスケア企業が大きく成長し、これらが世界の株式相場を牽引すると予想する。世界経済の悪化時には、ごく少数の勝ち組企業と、それ以外の企業の株価の価格差が一段と拡大する。