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ウィズコロナの消費経済

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DATE
2020年07月29日

GBJアドバイザリーボードメンバー 諸江 幸祐

■ 過去半年間で大きく変わった企業金融の構図

今年1月末、新型肺炎の禍を逃れて中国・武漢から邦人を乗せたチャーター機が羽田に着いた時点では、多くの日本人にとってCOVID-19はまだ対岸の火事だっただろう。筆者を含め多くの国内消費経済ウォッチャーの予想は、「今年は旧正月のインバウンド需要が見込めない」と落胆した程度だった。しかし3月には国内感染が本格化し、緊急事態宣言、外出自粛、そして緩和後のGO TOキャンペーンの混乱へと、事態の深刻化・長期化が確実になってきた。

さすがにここに至っては楽観論は影を潜め、消費関連のみならずすべての企業が提供する商品・サービスへの需要不足を懸念して長期資金の調達に躍起になっている。上場企業は銀行のコミットメントを確認する一方で社債の発行を急ぎ、中小企業は政府系金融機関のセーフティーネット融資に飛びつき、個人経営の企業は持続化給付金や家賃補助に期待をかける。しかし公的資金が提供される一方で、民間金融機関の多くは着々と約定弁済による借入金回収を進めており、政府による金融機関への信用供与が行われている構図だ。まさに大恐慌への明らかな備えである。

もちろん、ワクチンや治療薬が実用化され、人々がその効果を信じて早期に以前の日常を取り戻せば、最悪のシナリオに基づいた戦略変更やそれに対する備えは杞憂に終わる。しかしその解決の到来がまだ予測できない、あるいはそれまでの日数がかかればかかるほど、コロナ禍は人々に新たな行動変容を要求することになり、企業戦略を大きく左右するだろう。「ビフォアコロナ」を戦略策定のデファクトとすることはもはや許されない状態だ。

■ ポストコロナで変わってしまうこと

下記の表に、コロナ禍による消費経済のビフォア・アフターの比較を示した。社会学者でもない筆者が予測することなので、確度については大目に見ていただきたいが、「恒久的に変わってしまうこと」、「元に近い状態になるのに相当の時間を要すること」、そして「すでに起こっている変化が加速すること」に大別して、人々の行動項目、消費サービスに関連した項目を挙げてみた。

まず一番に不可逆な方向が決定的になったのは、テレワーク・リモート会議への傾倒である。そもそも日本の企業はデジタル化が遅れており、労基法などの法的整備も事業場外労働に対する理解が不足している。ウィズコロナでは政府がリモートワークを強く推奨することもあり、これまでの通勤ラッシュ、密なオフィス環境、出張や会議体制などが見直されるだろう。それに伴って、オフィススペースの縮小、駅や空港などの交通拠点、それらが位置する不動産相場などに大きな影響が予想される。

どうしても欲しいもの」が際立ってくる

そもそも近年の高度消費経済の中では、モノの消費支出が伸び悩み、コトの消費についてもコストと見合った価格設定ができているか疑問視されていた。ポストコロナの時代は、「何が何でもコレが欲しい」という際立った特性がヒット商品の決め手になるのではないか。その限りにおいてはスーパーブランドでさえも安泰とは言えない。消費頻度が減ることで、量産品よりも唯一無二、コスパよりもその商品・サービスを得られることに価値を見出すことが重要だ。

価格に対する考え方も少し変わってくるかもしれない。商品も飲食サービスも消費数量は減る可能性が高い。それでも提供者が最低限の収益を確保しなければならないとすれば、付加価値を上げるしかない。提供者が多すぎる状態ではだれも利益を期待できない価格設定もありうるが、提供側の淘汰が進めば「妥当な利益」に対する消費者の許容も進むだろう。

消費者向けサービスのデジタル化は一気に進展

新型感染症に対する人々の対応は、個人によってかなり異なっている。ビフォアコロナでは同じような価値観や行動パターンを持っていた人が、感染症に比較的無頓着な人から過敏なまでに神経質になる人まで広く分散する。前者グループはビフォアコロナとよく似た行動パターンに戻るが、後者はおそらく長い間慎重な行動を変えない。すなわち単一の商品・サービスの需要は減少する可能性が高く、消費の多様性が進む。

慎重な人たちには高齢者が多く、若い人たちは引き続き制約を好まない。これまで高齢者のリテラシーに配慮して進まなかったデジタル化、決済のキャッシュレス化は、この機会に一気に進展するのではないか。コロナ前後でも変わらないわが国の生産労働力不足も、デジタル化を後押しするはずだ。