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コロナ禍におけるDXの実現

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DATE
2021年08月27日

ゴードン・ブラザーズ・ジャパン バリュエーション部 マネージングディレクター 帥 暎琦 

■ そもそもDXとは何

新型コロナが一向に収束しない中、世の中では今まで以上にDXという言葉が“バズワード”として盛り上がりを見せている。DXはデジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation)の略であり、その定義は様々であるが、ビジネスに限って言えば、「企業が第3のプラットフォーム技術を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデル、新しい関係を通じて価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」になる(IDC Japanより抜粋)。また、ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によれば、DXとは「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるもの」であり、ITやテクノロジーを活用する、というのが1つのキーワードである。

一方で、表現は違うが、弊社が考えるDXとは「企業が有するデジタル資産(データ)を“情報”に変換し、意思決定の最適化に対応できるよう、業務の自動化及び分析プラットフォームの構築により、企業がPDCAサイクルを実現できる環境を構築すること」であり、これを実現するためにはAIやBI(Business Intelligence)、その他(RPA(Robotic Process Automation)、クラウド等)のサービスやツールを活用することになる。

なお、DXの概念は大きくわけてDigitization(デジタイゼーション)とDigitalization(デジタライゼーション) の2つがあり、直訳するとどちらも「デジタル化」という意味になるが、前者はアナログな作業をデジタル化(デジタルシフト)させ、生産性を向上させることに重きを置いているのに対し、後者はデジタル化された情報や技術を活用して、ビジネスロジックやビジネスモデルさえも変革させることを意味している。デジタル化が相対的に他国よりも遅れている日本では前者のDigitizationを早急に実現する必要があるものの、様々な制約によりこれを実現できていない現実がある。

DXを行う理由

DXを行う理由は少なくとも以下の4つがあると考えられる。

  1. 生産性の向上による業務負担の軽減
  2. AIやBIを活用することで意思決定の最適化や選択の幅を広げる
  3. 人材育成による競争優位の維持=DXを行うのはヒト
  4. DXの成功による新たなビジネス創出の機会

上記理由はDigitizationとDigitalizationの両方の概念を含むことになるが、殆どの企業にとっては1~3を実現することが喫緊の課題となっている。また、DXに際してテクノロジーが最も重要であると考えられがちであるが、DXを成功させるためには実はヒト(社内育成)が最も重要であり、社内外でDX関連のプロジェクトに関わった経験がある方であれば自ずと頷くのではないだろうか。

DXとテクノロジー

DXを実現するためには様々なハードルがあるが、AIやBIを活用することが1つの手段となる(図表1)。

AIについては殆どの人がその“概念”について知っていると思うが、ビジネス上でよくあるのが、「AIを活用して過去から未来を予測し、最適なアクションを取っていく」というシナリオになる。つまり、AIは人間が計算できない複雑なシナリオをパソコン上で計算させて最適解を見つけ、意思決定の最適化、あるいは“それ自体を意思決定とする”ものである。

一方でBIの概念は「大量データの分析やその結果を可視化することで経営上の意思決定を迅速にサポートする手法及びツール」であり、一見するとAIとほぼ同じ意味合いを持つ。図表1.はAIとBIの関係性を簡単に図説したものであるが、AIが最適解・予測等に特化していることに対して、BIは自動化・可視化(データ解析やビジュアル分析)、更にAI機能をも含む。この場合のBIはBIツールを指すが、ツールにAI機能が含まれるのは珍しいものではなく、現在主流のBIツール(Power BI、Tableau、Qlik等)の殆どにAI機能が含まれている。

BIでAI機能を使用する例として、弊社がDX支援に際して使用するPower BIでは数字の変化をAIが分析し、人間に代わって“初期診断”として人間が見るべき箇所を様々な切り口で分かりやすく可視化してくれる機能があり、その多くの場合が質問に回答をしてくれるものである(図表2)。

ここで少し雑談になるが、弊社が2021年6月に主催したウェビナー「ウィズコロナ時代の企業変革実現に向けて」にて実施したアンケート(Power BIの機能の1つであるリアルタイム・ダッシュボード(=QRコードで読み込んだ先のアンケートに回答するとほぼリアルタイムで結果が可視化される)によると、回答者数99名のうち、93%の人がAIというキーワードを知っていたのに対して、BIについて知っている人は50%未満であった。AIは映画やAlphaGo等の影響により絶大な認知度を誇るも、BIというキーワードについて知っている人が半分以下という結果に終わったことは興味深い。

セミナーでは質問しなかったが、仮に「ExcelもBI」であるという一文を入れた場合、まったく異なる結果になっていたことも予想できるが、結局のところDXを行うにはテクノロジーについて知ることが大事であり、それに加えて興味を持ったメンバーを中心に展開することが原則となる。

DXの実現に向けて

弊社(GBJ)はテクノロジー企業ではないが、社内で様々なテクノロジーを活用して業務及び意思決定の最適化に努めている。よく、DXは「自社のことが一番分かっている社内メンバーからスモールスタートすることが成功のカギ」と言われるが、この言葉はまさにその通りである。ビジネス全体にインパクトをもたらすDXはビジネスモデル、強いては新規ビジネスの創出につながるものとなるが、まずは社内でスモールスタートすることが肝要である。

例えば、AIを導入することで予測精度が高まり(この場合、予測に求められる精度は季節性の有無、イレギュラーなイベントをどのように扱うか等によって、大きく異なってくる)、通常のオペレーションで人間が予測した場合よりも精度が10%高まり、結果的に年間で売上が+〇〇円、コストで▲〇〇円の効果が見込める、といったシミュレーションを過去データで検証を行い、AIを導入した場合のTCO*1と比較することでAIを導入すべきかどうかを決めると良いだろう。

一方、このシミュレーションを行うだけでも社内リソースを消費するため、IT人材に乏しい企業はその段階でDXの第一歩を断念せざるを得ないことになるもしれないが、その場合にはもう少し地に足のついたところからスタートさせることで対応できる可能性が高い。

すなわち、社内の課題を”棚卸”することが必要になるが、費用が高く使いこなすのに時間がかかるツールを使用するのではなく、まずはExcelといった基本的なビジネスソフトで現在の状況を可視化させ、それを元に今後投資していくべき領域をジャッジしていくのである。これを実現するためには例えば、社内横断的にCoE*2やBICC*3といった部門を立ち上げ、社内ITリテラシー、競争力強化のための分析チームを立ち上げるのも手である。

ただし、この場合、チームとして入るべき人間はデータ活用、先進テクノロジーに興味がある人、ビジネス上の問題をテクノロジーで解決していきたい人を中心に編成することがベストアプローチである。一方、そのような人材が社内にいない場合、外部コンサルを頼り、自社で中長期的にこのような組織形態を創り上げるための仕組み作り、人材教育等を手伝ってもらう、あるいは外部から優秀な人を採用する等して、自社の競争力向上につながるような施策を打ち出していくべきである。

このように、DXはテクノロジーだけではなく、人材に深く関わる問題を解決して初めて実現性が見えてくる。そのため、DXを実現させるためには相当な投資(人材やインフラ等)を覚悟する必要があるが、企業が現在のデジタル社会で生き残っていくためにはAs isとTo beを認識し、自分たちが理解できる範囲でまずはスモールスタートさせていくことが良いだろう。

 

*1:Total Cost of Ownership ; 導入・運用・人件費等のシステムの総所有コスト

*2:Center of Excellence ; 組織を横断する取り組みを継続的に行う際に中核となる部署及びチーム、
通常はトップレベルの人材やノウハウ、ツールなどが集結

*3:Business Intelligence Competency Center ; 分析スキルの高いスタッフで構成された部署やチーム、CoEと類似語