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近年の外資系企業の動向と今後

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DATE
2021年11月09日

ゴードン・ブラザーズ・ジャパン リテール

マネージングディレクター  岸本 真一郎

マネージングディレクター  護田 健一

■ はじめに

今年8月、業務用食料品卸売りを展開しているMETROが日本撤退を発表した。ドイツに本社をおく流通大手のMETROは2002年に日本に進出し、首都圏に10店舗を展開している。撤退の理由には国内の卸売り市場の競争環境が激しいほか様々な理由があるようだが、店舗を徐々に減らしていくのではなく一気に完全撤退を決めたのは、実に潔い決断だと感じる。

弊社の親会社であるゴードン・ブラザーズは、METROのヨーロッパにおける各国での撤退をサポートしているが、弊社ゴードン・ブラザーズ・ジャパンも、外資系企業の日本撤退をこれまでにいくつもサポートしてきた。いずれもアパレル企業の日本撤退であったが、規模の大きかったものでは、全国で展開している店舗の閉鎖を依頼からおよそ4ヵ月で完了させるというものであった。この案件でポイントだったのは、全店舗全てにおいて閉店最終日まで在庫を残しての販売するというのがディベロッパー側との約束だったことだ。つまり、とにかくどんどん売ればいいということではなく、店舗が空っぽの状態になるようなことがないよう在庫を無くしつつも、在庫量をコントロールする事が非常に重要であった。この案件では無事に店舗を空にすることなく且つ最終日での全量在庫消化を達成したうえ、割引率をコントールすることで不必要な割引を抑制し、クライアントの期待を超える収益を達成している。

国内撤退を成功させるためのポイント

国内撤退を成功させるためのポイントは以下の5つである。

①ショッピングモール及びアウトレットモールの撤退交渉
6カ月前交渉であるが、違約金が想定以上かかる可能性がある為、早期確認と店舗退店スケジュールをキチンと立案する必要がある。

②閉店日までの在庫コントロール
ショッピングモールにおいては、閉店日まで在庫を必ず販売することを求める場合がある。国内撤退の場合、本国からの在庫の追加投入が無いため在庫消化率をモニタリングする必要がある。

③什器、備品の廃棄処分及びに、現状回復工事の工程管理
本国へ移動することは不可能なため、什器、備品は現地での確実な処分が必要となる。また、現状回復を怠ると、追加費用などが発生するため適切な企業をアサインする必要がある。

④顧客情報の管理
本国管理として引き続き、メールなどでの顧客フォローを引き継ぐ。

⑤閉店後の商品のカスタマー対応について
ショッピングモールなどから退店後のアフターケア対応の連絡先を求められるため、準備をする必要がある。

外資系企業の意思決定の速さと日本企業の遅さ

これまでいくつもの外資系企業の撤退をサポートし感じることは、その意思決定の速さである。不採算事業に対し、今後事業を継続した場合のメリットとデメリットを合理的に判断している。早期に見切りをつける事により赤字幅を削減することができ、またモールなどのデベロッパー側とより早く交渉を開始する事ができるようになり、違約金について時間を割いて交渉が可能となる。

一方日本企業の場合はなかなか決断できないことが多く、その要因はいくつかあるが、従業員が自身の就業を確保するために、必要以上に閉店するまでの期間が長く必要と主張したり、従業員はそのブランド撤退後もアパレル業界内で働いていくことを見据え、デベロッパーとの交渉等に弱腰になってしまうことが多いようだ。

また、現場従業員がこれまでのやり方に拘り日本流のやり方を最後まで通すことを優先したり、国内撤退のような特殊局面の経験が少ないことから、次々に発生する事態に柔軟な対応が出来ず、収益の最大化を逃していることが多い。

今後も外資系企業の撤退は増加するのか

今後の外資系企業の動向は気になる人も多いだろう。その中で、次の撤退企業はどこだと考える人や増加するのか?と思う人もいるだろう。結論から言うと“撤退は増加する”と思ってもらって間違いない。

その理由は、2点ほどあげられる。1点目の理由は我が国の人口減少問題が挙げられる。この現象については、理解している方も多いと思う。少子高齢化の進行により、我が国の生産年齢人口は1995年をピークに減少に転じており、総人口も2008年をピークに減少に転じている。総務省「国勢調査」によると、2015年の総人口(年齢不詳人口を除く)は1億2,520万人、生産年齢人口(15歳~64歳)は7,592万人である。14歳以下の推計人口は1982年から連続して減少が続いており、少子化に歯止めがかからない実態が改めて浮き彫りになっている。

国立社会保障・人口問題研究所の将来推計(出生中位・死亡中位推計)によると、総人口は2030年には1億1,662万人、2060年には8,674万人(2010年人口の32.3%減)にまで減少すると見込まれており、生産年齢人口は2030年には6,773万人、2060年には4,418万人(同45.9%減)にまで減少すると見込まれている(下図参照)。所謂、生産年齢人口の減少に歯止めがかからず、最も商品の購買を行う層の減少である。その為、日本ヘ進出していても購買層が少なくメリットを感じることが出来ない。前項でも述べているが、良くも悪くも合理的な判断をする外資系企業は日本市場に疑問を持ち、収益面を考え始める。

2点目の理由は、やはりコロナの影響である。日本以外もそうであるが、コロナの影響で大きく消費者の行動パターンが変わってしまった。

今までは、旗艦店を大都市の好立地ヘ出店し、ブランディングを行いながら外資系企業は知名度を上げてきたが、コロナ禍により駅前などから消費者が離れ、ブランディングの効率面が落ちた。更に、EC市場の伸びが急激に進んだことも要因である。一見、SNSなどで手軽にブランディングやマーケティングが気軽にできるようになった世の中だが、そうなると競合環境が激化して消費者が分散しやすくなるデメリットもある。実質無名のブランド企業がZOZOTOWNで一気にシェアを伸ばした事例などもある(対象企業は年商で3倍以上伸びたそうだ)。

よくコロナが落ち着けば、今までの生活に戻るから問題ないなどの声も聞くが、人間一度便利な経験をするとなかなか戻れないのが実情である。ある程度は、戻るとしてもコロナ前の日本市場に戻らないと考えるのが正しいだろう。そのような環境の中、価格競争が激化し収益面も低下している日本市場にうまみを感じなくなる企業が今後も増えることだろう。人口減少やコロナ禍による行動変化により、消費面と収益面のダブルパンチを食らってまで日本市場に拘る外資系企業がどこまでいるかが疑問であり、合理的な彼らが撤退を選択すると考えることの方が正しいと言える。