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製造業の国際競争力と画像認識との関係について

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DATE
2022年10月28日

GBJアドバイザリーボードメンバー 伊原 保守

 

製造業の国際競争力と画像認識との関係について私の思うところを書いてみたいと思います。

 

国際競争力

現在日本の企業で最も国際競争力があり、外貨を稼いでいるのは、「自動車産業」です。少し前までは、家電、重電、半導体産業も強かったのですが、今は全く国際競争力がありません。

ではなぜ家電は国際競争力を無くしてしまったのでしょうか?

日本の家電メーカーは、最初は自社で開発し、製造し、販売していました。ところが、1990年頃からEMS(イーエムエス)と呼ばれる生産専門会社に外注し、生産基盤を無くしました。EMSは“Electronics Manufacturing Services”を略したもので、“電子機器の製造を受託するサービス、またはそのサービスを提供する企業”のことです。電子機器メーカーは、一般的に製品の設計、試作、生産、配送、保守といった機能を保有しますが、そうした一連のメーカーとしての機能のうち、特に生産面をメーカーに代わって担っています。EMSは1980年代から米国で発展していったビジネスモデルで、世界規模で広まり特に台湾で発達し、現在では売上高上位10社のうち7社を台湾の企業が占めています。製造に特化した“下請け”とは異なり、基本的には製品の企画・設計から資材の決定・調達、製造を行い、契約を基に量産規模でのロット生産業務を担う点が特長です。

ソニーやパナソニックは生産への投資を削減し、開発と営業に集中することで国際競争力をつけようと生産を外注化しました。しかし、生産をEMSに委託したことにより、生産基盤、生産ノウハウを徐々に無くし、コスト競争力を失いました。

また、シャープのアクオスは素晴らしい製品でしたが、自動車の販売店のような自前の販売網がないため、ヤマダ電機への販売依存が過大になり過ぎたようです。製品の価格(値引き)決定権をヤマダ電機にとられてしまい、収益の確保が困難になりました。その結果、シャープは台湾の鴻海精密工業に、また、東芝の白物家電は中国の美的集団に買収されてしまいました。

半導体のルネサスは、2011年の東日本大震災で被災しました。その時、トヨタ、日産、ホンダは応援部隊を出し、生産の6ヶ月以上早出しを実現するなど全面支援をしました。その後、トヨタは出資までしてルネサスを助け、自動車半導体生産の拡大を提案しました。

しかし、残念ながら、ルネサスは少し違う方向に進み、自動車半導体生産工場を縮小してしまいました。その結果、半導体生産では、今や台湾TSMCの一人勝ちで、TMSCは世界の半導体の60%を生産しています。また、TSMCは日本政府から4000億円の援助を受け、2024年に熊本に8000億円の新工場を稼働させる予定です。ルネサスに日本で半導体の新工場を作ってほしかったと思うのは私だけでしょうか。

 

■ トヨタが国際競争力をもてた理由

ではなぜ、トヨタのような後発企業がGM、フォードに勝てる「国際競争力」を持てたのかを、まず説明したいと思います。勝てた理由は大きく3つあります。

  1. 1つ目は差別化したエコカー商品の開発です。プリウスに代表されるハイブリッドの開発です。これは、今のトヨタの内山田会長がチーフエンジニア時代に開発したものです。開発費、生産設備費がかさみ、発売当初は250万の売価に対し原価は350万円し、1台あたり100万円の大赤字でした。これを、当時の奥田社長が「ハイブリッドは世界を制する」との信念で周囲の反対を押し切り、発売を開始しました。その後、毎年毎年原価低減を実現し、今やハイブリッドはしっかり利益を出しています。最先端技術を駆使し誰も出来なかった商品開発が世の中に受け入れられ、圧倒的なシェアを確保しました。
  2. 2つ目は「品質」を大切にしたからです。これはトヨタ自動車を創業した豊田喜一郎の父親の豊田佐吉が、織機を作る時に一番大切にした点です。機織りには横糸と縦糸が必要です。しかし、もし、糸が1本でも切れるとすぐ止めないと不良な布ができてしまいます。世の中の機織り機は糸が切れても止まりませんでしたが、佐吉の作成した機織り機は糸が切れると自動で止まりました。
    この仕掛けの特許権をイギリスのプラット社に譲渡し10万ポンド(100万円、今の価格で10億円)を得て、自動車の開発資金にしたと言われています。
    トヨタはこの佐吉の精神を遵守し、品質を何よりも大切にしました。また、この考えを2万点に渡るすべての部品メーカーに徹底しました。品質を確保するため、トヨタは自ら部品メーカーに乗り込み、部品メーカーと一緒にラインの変更、品質確保策を実施し、品質第一を徹底しました。

  3. 3つ目はJUST IN TIMEと自働化のトヨタ生産方式の確立です。トヨタ生産方式とは無駄なものは作らないという生産方式です。これは、トヨタ自動車を創業した豊田喜一郎が提唱し、1967年から82年までトヨタ自動車工業の社長を努めた豊田英二さんが大野耐一さんと一緒に作りあげた生産方式です。
    豊田英二さんが1950年にフォードを視察した時、すでにフォードは年間200万台生産しており、一方、トヨタの年間生産はわずか1万台でした。豊田英二さんは大量生産方式ではなく、少量でも安く作る生産方式を考えださないとフォードに対抗できないと考えました。それが、トヨタ生産方式です。このトヨタ生産方式の実現で価格競争力をつけました。
    この「商品開発」と「品質」と、「トヨタ生産方式」の三つでトヨタは国際競争力をもち、シェアを拡大しました。

 

■ 画像認識技術

実は世の中では、人間が目で判断している産業は自動化が進んでいないという実情があります。例えば、農業、建築、食品加工、物流、介護などです。これらの産業での自動化は大変遅れています。

しかし、この目の判断を自動化するための技術革新が進んでいます。「画像認識技術」です。この分野の素晴らしい革新が進みました。ロボットの目は人間の目になかなかかなわなかったですが、最近では、「ディープラーニング」の進化により、かなり人間の目に近くなってきました。

もちろん、この画像認識技術は車両の開発、自動運転など、開発分野では、大変大切です。特に、この分野ではソニーやデンソーが大変強いです。

生産分野でも画像認識技術は大変大切です。それは、今までの生産工程を一変させる可能性があります。この画像認識を使いこなせば、省人化が進み、少量も大量生産も可能になり、スピードも早くなり、生産方式を完全に変えると思います。

例えば、自動車の部品メーカーや自動車メーカーでは、人間の目による品質検査にたくさんの人を割いています。ある工場では、検査員だけで工場全体の10%から30%も占めています。画像認識を採用することにより、検査要員を大幅に削減することができ、省人化ができ、生産スピードが速くなり、国際競争力が向上します。

また、画像認識を扱うことにより、自動化がますます加速し、製造業のライン構成は今までとは一変すると思います。また、自動化の遅れていた産業は加速度的に自動化が進み、全く新しい工場、新しいラインが作られ品質、生産コストは大幅に削減されると思います。

 

■ 私の願い

私は日本の、特に製造業にはふたたび国際競争力をつけて世界と戦ってほしいと思っています。そのためには、若い人々にAI、画像認識の勉強機会を与えて、日本がAI、画像認識技術を極めることが大切だと思います。

画像認識の大家である東大の松尾豊教授は、『日本はまずは人工知能を「使う国」になるではなく「作る国」になるべき。』と述べています。ぜひ、今の若い人にAIと画像認識を極めてもらい、トヨタや日本の製造業の強みである、商品開発面、品質面、生産面をさらに強化してほしいと思います。いつの日か日本の製造業がふたたび、国際競争力をつけ、世界をリードして欲しいと願っています。