DATE
2023年05月09日
GBJアドバイザリーボードメンバー 原田 良治
■ メディアの歴史
メディアという概念は広範にわたり多種多様です。「伝える手段」と位置付ければ、起源は紀元前30世紀における“パピルス”の発見ということになります。マスメディアということになると15世紀半ばヨハネス・グーテンベルクの“活版印刷”の発明が起点ということになります。ただ私がここでフォーカスしたいのは、日本書紀にある「狼煙」や江戸時代の「瓦版」でもなくずっと近代に近づいた、広告ビジネスを中心とした「テレビ」とそれに続く「web」への変遷についてです。
■ テレビ普及の変遷
1897年ドイツのK.F.ブラウン氏が、テレビジョンの画像を映し出すための「ブラウン管」を発明したことが大衆化の起点となります。日本においては1939年日本ビクターが日本初のテレビジョン受像機(反射型テレビ)を発売し、日本初のテレビジョンの試験放送を行っています。
日本における大衆化のきっかけは言うまでもなく1964年の東京オリンピックの開催です。その後テレビは他メディア衰退を尻目に、メディア頂点として大きな力を発揮し続けてきました。但し、令和の現代においてテレビは、サブスクリプションや無料の配信・ダウンロード映像(動画)に押され、様々な視聴手段ひとつに過ぎず、主役の座は後述するWebに明け渡して行きます。
ではなぜテレビが勢いを失ったのか。大きくは以下2つに集約されると思います。1つ目は“スマートフォンの普及“。2つ目は”視聴率”という曖昧な物差しで構成されるビジネスモデルではないでしょうか。
1つ目の“スマートフォンの普及”についてお話しします。
実際のテレビの普及率の推移を見てみましょう。下表は内閣府「消費動向調査」による、カラーテレビの普及率・保有台数の推移です。テレビの普及率は、75年に90%を超え、その後99%程度にまで達して普及上限に到達します。その後は、約35年間に渡って飽和水準を持続していたものが、2014年頃から緩やかな低下に転じています。
これは、若年単身世帯のテレビ保有率の低下が影響しています。テレビを持つ高齢者の世帯が減少し、テレビを持たない若年世帯が増加しているために全体のテレビ世帯普及率は減少に転じています。
この現象を引き起こしているのがスマートフォンの普及です。2007年に発表された初代iPhoneが爆発的なヒットとなり、それに同調するようにテレビの普及率が低下し始めます。
29才以下単身世帯においては、男女ともにテレビの普及率が低くなっている。この層はスマートフォンがテレビの代替えとして普及していると思われる。
2つ目の“視聴率”で構成される、テレビにけるビジネスモデルの矛盾についてお話しします。
各テレビ局はなぜ視聴率に異常なまでにこだわるのか。それは視聴率が広告収入の物差しとなっているからです。スポットCMには「GRP」という指標があります。GRPとは「Gross Rating Point」の略語で、一定期間に放送されたテレビCMの視聴率を合計したものです。
仮に、視聴率10%の番組に10本、5%の番組に5本、3%の番組に3本、計18本のCMを流したとします。その場合のGRPは、(10%×10本)+(5%×5本)+(3%×3本)=134GRPとなります。
CMの費用は、GRPにGRP1%あたりのパーコストをかけて算出します。パーコスト(CPR)は「Cost Per Rating」の略語です。つまり、世帯視聴率1%の値段のことを指します。たとえば、パーコストが10,000円だったとします。これを先ほどの例で計算してみましょう。
134GRP×10,000円=1,340,000円。つまり、18本のCMを流した際の合計金額は134万円となります。価格設定は、テレビ局側の事情と発注するスポンサーサイドの要望を照合し交渉によって決定します。不思議なことにこのパーコストには物差しが存在していません。実際の取引においては、スポンサーサイドとテレビ局の間に広告代理店が介在し調整します。
GRP算出の基本数値である視聴率は「ビデオリサーチ」という民間会社が出しています。この会社は大手広告代理店より作られました。「スポンサー⇔広告代理店⇔テレビ局」というこのビジネスモデルは、広告代理店が飛躍する大きなエネルギーとなりました。一方で広告費の重要指標である「パーコスト」と「視聴率」は、スポンサーサイドにとっては分かりにくく、投入する広告費の効果測定を数値化することは非常に困難な作業となります。このように大きな影響力を持ちつつ課題も多かったマスメディア、とりわけテレビの後継として登場したのがネット社会におけるWeb広告です。
■ Webメディアについて
まずWebメディア登場の背景についてお話しします。
一家に一台のテレビを家族全員で視聴するという、昭和を象徴する風景は徐々に変化します。先ずは一世帯当たり複数のテレビが保有されるようになり、「家族はお茶の間に集まりみんなでテレビを見る」は過去のものとなりました。
そこに拍車をかけたのがスマートフォンの登場です。一家一画面の時代から一人一画面の時代になります。またテレビの時代においては、番組制作はテレビ局関係者に限定されていましたが、スマホ時代においては誰もがメディアの制作者・発信者となりえます。YouTube、Instagram、TikTokなどによる 「自己創発」時代の到来です。このことにより、視聴しているのが世帯なのか個人なのかという区分けが困難になり、「視聴率」という概念がさらに定義しづらい状態になってしまいます。このようなメディア環境や生活習慣の変化が、Webをメディアの主役に押し上げたのです。
テレビCMは「視聴率」という概念により広告費が投入され、その効果を測る物差しはなく投入するコストも厖大でした。一方でWebメディアは一人一画面であることにより、広告を見たかどうかが明確になり、成果報酬型広告という概念が生まれます。
それでは、成果報酬型で費用対効果が明確になる「Web広告」の仕組みについてお話しします。
Web広告の成果を評価するための指標として重要な意味を持つのが「クリック率(CTR)」です。クリック率(CTR;Click Through Rate)は、広告が表示され実際にクリックされた割合のことです。例えば、広告の表示回数が1,000回でクリック数が50回であれば、クリック率は5%となります。
◎ CTR(%)= クリック数 ÷ 表示回数 × 100
もうひとつの重要な指標がコンバージョン(CV;conversion)です。コンバージョンとは視聴者が広告主の想定するアクションを起こしてくれた状態にあることを指します。コンバージョン率とは、そのWeb広告がどのくらいの成果を上げているかを示す数値です。
コンバージョンにいたるまでの費用対効果は、「コンバージョン単価(CPA;Cost Per Acquisition)」という指標で評価できます。コンバージョン単価は以下の式で計算できます。
◎ CPA(円)= 広告費 ÷ コンバージョン件数 × 100
このように、4大マスと言われた「テレビ」「新聞」「ラジオ」「雑誌」の時代では曖昧であった費用対効果が、Web広告の世界では数値化できある程度明確になりました。
核家族化及びスマートフォンの登場が、私たちの生活様式を大きく変えました。このことがテレビからWebへのメディアの変遷をもたらすと共に、広告代理店の在り方も転換させました。
但しこのことは、これから起こるあらゆる分野における大転換のひと欠片であるということを、私たちは認識する必要があります。