DATE
2023年09月20日
GBJアドバイザリーボードメンバー 黒松 弘育
■ はじめに
前回(2023年3月の寄稿)は関西経済の今後の可能性と課題について、マクロ的視点から報告させていただきました。要約させて頂きますと関西では少子高齢化が他の地域より早く進行していますが、人口減が進む中でも依然としてかなりのシェアを確保していることから、少子高齢化が進む地域での先進事例を生み出すことができる可能性があること、加えて大阪キタエリアを中心に人口が戻ってきており、再開発や大型プロジェクトも計画されているということでした。今回はその大型プロジェクトや再開発の概要を説明いたします。現在は大阪万博の工事が進み、IR(総合リゾート)構想も承認され、関西の経済が再び活気を見せております。また、万博の開業を控え、大阪の玄関口の大阪駅周辺のインフラ開発が進んでいます。
■ 大阪キタ周辺の再開発について
大阪万博の建設が順調に行われ、舞洲からの地下鉄中央線や様々な線での延伸計画が進む中、大阪駅北側の開発が急ピッチで進んでいます。2023年3月には地下駅がオープンし、関西空港の特急やおおさか東線の乗り入れが始まっています。JR大阪駅に直結するオフィスや様々な機能、民間宅地などが隣接するばかりではなく、大規模ターミナル直結としては世界最大規模級の都市公園(約45,000㎡)が2024年度夏には一部先行開園予定で、地上駅もその翌年には開業を迎え、2031年春には、南海電車とも直結するなにわ筋線も開業する予定です。関西の鉄道は、狭軌(JRと南海、近鉄南大阪線)と広軌(阪神、阪急、京阪、近鉄大阪線、地下鉄)があり、乗り入れが遅れていましたが徐々に広がってきています。
最近ここにきて、大阪キタの人口が増加に転じているところもありますが、吹田市や豊中市も人が戻ってきています。大阪市と吹田市、豊中市を縦断する大動脈の御堂筋線が箕面市まで繋がる延伸計画も順調に進んでおり、特に千里中央駅前は新都心として再開発が進んでいます。
■ 関西の2大プロジェクト(大阪万博と統合型リゾート施設構想)について
今後の関西経済の浮沈を握る2大プロジェクトの大阪万博は、2025年の開業に向け進められており、同じ舞洲で計画されている統合型リゾート構想(IR)も開催できるかどうかが争点であった選挙もクリアし、政府の承認を受け、実味を帯びてきました。
関西の人工島、舞洲で予定されるこの2大プロジェクトについて説明いたします。まずは、大阪万博ですが、大阪のベイアリアの夢洲(大阪市内で発生した建設土砂等を利用して作られた人工島)で2025年4月13日から184日間開催する予定で工事が進んでいます。3つのワールド(パビリオン、グリーン、ウォーター)で構成され、153か国・地域(2023年3月時点)の多数の企業が参加する予定です。博覧会に期待する事は、関西エリアの活性化のみならず、観光立国としての日本文化の発信のチャンスであり、話題性として空飛ぶクルマの導入をいたします。
一方で誘致の遅れや建築資材や人件費が高騰しており、当初の想定の1.5倍(1,850億円)まで膨れ上がっています。ここに来て、工事の遅れやコロナは収束に向かっていますが、入場者数には影響等が懸念されます。一方で、万博の経済効果は、開催の為の経済効果は8千億を超え、波及効果を含めると2兆円を超えると想定しています。(大阪府国際博覧会検討データ収集等調査による中間報告資料より)
■ 統合型リゾート施設構想について
選挙が終わった4月14日に日本政府はカジノを含むIR(統合型リゾート施設)について、2029年度に開業を目指すという大阪府と大阪市の整備計画を認定しました。勿論、IRの認定を受けたのは日本で初めての事です。万博と同じ人口島、夢洲で計画されており認定を受けたことにより今後急ピッチで進んでいくものと考えられます。今後のスケジュールですが、2023年の夏頃までには工事を発注し、2029年の冬までには、開業する予定で組まれています。施設の中身は、収容人数6,000人の会議室を核とし、カジノ、劇場、美術館、レストランを併設する巨大施設で、ホテルも総客室は2,300以上ある国内2番目の規模を想定しています。運営会社は大阪IR株式会社でMGMリゾート日本法人、オリックスの他、地元企業20社が出資して構成されています。舞洲での統合型リゾートがもたらす経済規模ですが、初期投資は1兆8千億円、年間2,000万人が訪れ、売上5,200億円(開業3年目)を見込んでいます。(内カジノ売上は8割を占めます。)IRの建設で11万6千人、運営で9万3千人の雇用を生み、運営に伴う経済の波及効果は1兆1千億円余りに達する予定です。関西も例外ではなく、地盤沈下、人口減少が進んでいますが、一方で主要1ヵ国分の経済規模を有しているのも事実です。規模的には、人口約2,000万人を有し、関西のGDPはスイスの6,793億米ドルに相当します。また関西は、京都、奈良等の歴史的にも豊富な観光資源や幅広い分野での産業クラスターが存在します。2020年代に実施する大阪発の2つの巨大プロジェクトにより、関西、とりわけ中心都市の大阪が、新しい時代の中で輝きを取り戻していくはずです。
■ 住みよい街大阪の今後の可能性について
一方で世界から見て、大阪はこんな評価も得ています。私自身、そこまで住みよいところかというと実感はありませんが、イギリスの「エコノミスト」の調査部門が毎年発表している「住みやすい都市」の調査で大阪が2021年度は2位、2022年度は10位と2年連続トップテン入りを果たしました。直近の2023年度でも大阪は10位にランクインしています。ベスト10入りした都市の中で、大阪は、人口270万人強ですが、市内総生産約20兆円、京阪神大都市圏としては、約80兆円と世界第7位の経済規模を有しています。
巨大な経済圏の中核にある都市でありながら住みやすい都市というのは、ある意味素晴らしい事です。大阪を中心とした関西エリアは、経済規模や住み心地に比して、地価は非常に安いと言わざるを得ません。市町村公示地価ランキング50を見てみるとほとんどが東京圏であり、関西エリアは4か所にすぎません(大阪市、京都市、芦屋市、吹田市)。つまり、今後の開発が見込めやすい土壌があるということです。また、京都、奈良に代表される歴史的な文化遺産(国宝、重要文化財)が数多く存在し、教育施設や研究施設も点在しています。世界的に見て地価の安い住みよい大阪(関西)が、今後のうめきた地区等の再開発を経て、万博やIR等の大きなプロジェクトを取り込むことによって、関西、とりわけ大阪は、今後の高齢化社会の中での街づくりを担っていく可能性があり、地盤沈下が進んでいた関西も今後は明るい未来が広がってきています。